誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

ファロー四徴症( TOF: tetralogy of Fallot ) 臨床経過2 Spell(無酸素発作)について ~ 疾患8

<スポンサーリンク>

Spellについて

今回はTOFの有名かつ重要な症状、Spellについて話していきます。

英語でSpell(スペル)って読みます。

日本語では無酸素発作ですけど、誰も無酸素発作って言わないので、共通言語としてSpellで覚えたほうがいいと思います。

 

f:id:inishi:20201028163127j:plain

図;Spell

 

みなさんこんな状況に遭遇したことはないでしょうか?

「赤ちゃんが不機嫌で泣いていたら、突然、青くなってぐったりした!!」

かなり恐ろしいですよね。

でもTOFでこういう事が起こり、これをSpellといいます。

SpO2モニターとかつけていると、SpO2が60%とか40%とかに下がったりします。Spellに遭遇した事がある人は恐ろしい思いをしたので、きっと覚えていると思います。

TOFに特徴的なこのSpellですが、一体どういう事が起きているのでしょうか?

 

Spellはどうして起こるか?

前回TOFは円錐中隔(*conus septum)の前方偏位によってできている、と話しましたが、Spellも円錐中隔(conus septum)が関係あります。

(* Conus septum=infundibular septum=outlet septumのことです。現在では後者2つの呼び方が一般的です。)

図を見ながら考えていきましょう。

 

f:id:inishi:20190522093005j:plain

S;ellはどうして起こるか

図:Spellの機序

 

この円錐中隔(conus septum)は筋肉なのです。

なので、赤ちゃんが「ギャー」って泣いていると

    ↓

全身に力が入ります。同時に円錐中隔にも力が入り、

筋肉が肥大します!

    ↓

円錐中隔が肥大すると

肺動脈の入り口を塞いでします!

    ↓

肺動脈に血液が行かなくなり、ひどいチアノーゼになる!

(これを無酸素発作:Spell(スペル)といいます。)

 

こんな機序でSpellは起こっています。実はここでも、また円錐中隔が出てくるんですね。円錐中隔(Conus septum)はTOFにとっては本当に大事なポイントなのです。

Spellが起こったら大変です。肺に全く血液が行かないので、下手したら死んでしまいます。なので早急に処置が必要になります。

 

Spellの時の対処

何事もそうですが、理由がわかれば、治療法も覚えやすいのです。

Spellの原因は「肺動脈の入り口を円錐中隔の筋肉が塞いでしまう」事が原因です。なので緊急時の対処法は2つあります。

  ・筋肉を弛緩させる。

  ・Volumeを入れる。

 

f:id:inishi:20190522093109j:plain

Spell対処法

図:Spell対処法

 

まず「筋肉を弛緩させる」については簡単ですね、全身に力が入って筋肉が肥大するので、力を抜けば筋肉は小さくなり、肺動脈の入り口が開き、肺に血液が流れるようになります。

→ なので、鎮静や筋肉を弛緩させる薬を投与する事が治療になります。すぐにできるのは泣かさないように落ち着かせる事ですね。薬もすぐに投与できるように鎮静薬(ミダゾラムジアゼパムなど)などを用意するようにしましょう。また外来などではSpellの懸念がある人や肺動脈の弁下の狭窄が強い人にはβブロッカーを内服させていたりします。これは心臓の筋肉を弛緩するお薬で、円錐中隔の筋肉が肥大して肺動脈の入り口を塞がないように予防をしているのです。

 

次に「Volumeを入れる」についてです。図のように筋肉が肥大していても、心臓に血液や水分を注入してあげると、心臓が広がり、肺の入り口も広がる事になり、肺に血液が流れるようになります。

→ なので、輸血やアルブミン、急ぐ場合は生食を入れてもいいですね。またネオシネジンなど末梢の血管をしめる薬なども同様の作用を期待しており、末梢の血管を収縮させることによって末梢にある血液を心臓に運ぼうという意図で投与しています。すぐにできる治療としては、「胸膝位」と言うものがあります。胸膝位もネオシネジンと同じく足や手などにある血液を体を縮こめることによって心臓に戻すように促しています。

 

どの教科書にも書いてあると思いますので、理由を理解することを目標にしてください。「筋肉を弛緩させること」と「Volumeを入れること」がSpellの治療になりますので、理解してから治療法を覚えてみてください。

 

Spellは心内修復術をするまではいつでも起こる危険性があります。

Spellを起こすような状態は非常に危険なので、Spellがある場合には手術が必要になります。

 まだ体が小さく心内修復術ができない場合であれば、BT shunt手術、

 心内修復術ができる体格(10kg前後)であれば、心内修復術

を施行する必要があります。

BT shunt手術をすれば、たとえ赤ちゃんが泣いて円錐中隔が肥大して肺血流の入り口を塞いだとしても、鎖骨下動脈→人工血管→肺動脈を介して肺に血液がながれるので、Spellで困ることはありません。心内修復術をしてしまえば、肺動脈の狭窄も治してしまいますので、Spellになることはありません。

なので、一旦緊急処置でSpellを落ち着けてから手術をするようにしましょう。

 

という事でSpellについてでした。次回は1歳10kgくらいで行われる、心内修復術について話していきます。