前回はHLHSの3つの重要なポイントを説明しました。
体心室が右室のため収縮能はイマイチで、血液が流れなかったから左心系が育たず、冠動脈の血流もしょぼい大動脈を逆行して還流するため虚血になりやすい、という話をしました。
3つ話をしましたが、2つ目の血液が流れないと育たない、というところが一番大事ですので、わからなかったら復習してください。それさえわかれば、HLHSがえらい簡単な疾患に感じると思います。
今回はHLHSの血行動態について説明していきます。その前にいつもどおりではありますが、HLHSの一生?を図表にしてみますので、参考にしてみてください。まだHLHSが助かりだしてあまり経っていませんので、なんとなくの予想でしかありませんが。。。今回はbil.PAB→Norwood→BDG→TCPCの流れで治療をする方向で話を勧めていきますので、それでよろしくお願いします。
図:HLHSの一生
HLHSの血行動態
今回はHLHSの血行動態について説明していきます。血液の流れは下の図のようになっております。
図:HLHSの血行動態
静脈血はIVCとSVC→RA→RV→肺動脈・PDA→肺・全身に行きます。肺に行った動脈血はLAに戻り、卵円孔(PFO)や心房中隔欠損(ASD)を通してRAに混ざり、RV→肺動脈・PDA→全身と肺に還流します。
こんな血液の流れになるので、生存に必要になるのが、PFO(またはASD)とPDAです!この2つがないと全身に動脈血がいかず、チアノーゼで死んでしまいます。
HLHSはこんな血行動態となっています。HLHSの血行動態は単心室の血液の流れの考え方のベースになると思いますので、この血液の流れ、問題点を把握するのは大変重要です。
まずこの血液の流れで必須となるのが、PDAとPFO(またはASD)です。PDAとPFO(またはASD)がないと動脈血が全身にいかないため、生存にはこの2つが絶対的に必要となります。しかし、普通であれば、PDAは日齢1-2に閉鎖し、PFOも生まれてすぐに閉鎖しだす子もいます。でもPDAやPFOが閉鎖したらチアノーゼで死んでしまいます。どうすればいいでしょう?
・PDAが閉鎖しないように生まれてすぐにPGE1製剤を投与。
・PFOが狭窄していればBASを行う。
もちろんみなさん知っていると思いますが、PDAを閉鎖しないように維持するにはPGE1製剤が必要になります。大体LipoPGE1を使用する事が多いのではないでしょうか?大事なのは、生まれてすぐにPGE1を投与する事です。PDAは閉じ始めると、開存させておくことが難しくなってしまいます。大量のPGE1を投与しても再開通する事はなかなか困難な印象です。HLHSはPDAが生命線なので、生まれてすぐにPGE1を開始する事は基本中の基本だと思います。
PFOに関してはお薬を投与しても意味なく、狭かったり閉鎖傾向であれば、BAS(心房中隔裂開術)が必要になります。PFOやASDが開いていなければPVから返ってきた動脈血が全身に行き渡らず、チアノーゼで死んでしまいます。PFOもHLHSの生命線であり、開通が必須です。ちなみに、ちょっとした豆知識ですが、心房中隔が固い症例は(心房中隔が分厚いやつ)HLHSの中でも悪い症例です。
HLHSはhigh flowになる疾患
久しぶりにhigh flowが出てきましたね。TGAでもhigh flowになりますが、困る前に手術に行くことが多く、あまりhigh flowのイメージはないかもしれません。しかし、HLHSではhigh flowをしっかり認識して治療しなければいけませんし、単心室血行動態においての基本的な考え方の例となりますので、どう考えればいいのかをしっかり理解しましょう!
High flowがよくわからない人は以前の記事を参照にしてください。2019/7/22の記事で目次を作ったのでそこを見てもらって必要なところを参照してください。
High flowは肺に血液がたくさん流れる状態です。
HLHSでは左室が使い物になりませんので、血液は「IVC・SVC+LA→RA→RV→肺動脈・PDA→肺・全身」へと流れます。すごく簡単に言うと、RVから肺と全身に血液が流れます。肺と全身に同じ力で血液を流すのです。
肺は全身と比べると血管抵抗が低い(血液が流れやすい)です。どれくらいかと言うと10倍くらい全身と比べて肺の方が血管抵抗が低く、肺のほうが血液が10倍流れやすいのです。このため同じところから肺・全身に血液を流そうとすると、血液は流れやすい肺にばかり行こうとするのです。
生まれたては生理的肺高血圧があるのですぐは大丈夫ですが、半日も経つとだいぶ肺血管抵抗は下がってきますので、肺にどんどん血液が流れるようになってきます。すると日齢1,2で肺には全身の2倍も3倍も多い血液が流れ、high flowでしんどくなってしまうのです。
肺の血流が増えると、肺静脈に返ってくる血液も増え、LA→RA→RVに返ってくる血液も増えるため、RVは大きくなり右心不全になります。RVが大きくなると三尖弁は弁尖が合わなくなり、TRが増加します。するとますますしんどくなり、悪循環になっていきます。
図:HLHS high flow
HLHSのように単心室血行動態で、1つの心室から肺動脈と大動脈が出ている状態だと生まれて数日ですぐにhigh flowになっていきます。体の血管抵抗と肺の血管抵抗では10倍くらい違うので、血液が行きやすい肺にじゃんじゃん血液が流れます。じゃじゃん肺に血液が流れるとしんどいので、早期に介入が必要になります。
昔は早期に介入が必要だっため、新生児期にNorwood手術をしていました。しかし、なかなか助けられず、散々な成績でした。。
そこで肺血流を制限する手術を挟む事にしました。それが両側肺動脈絞扼術(Bil.PAB)です。HLHSの場合は主肺動脈にバンディングはできないので(全身に行く血液もRV→肺動脈→PDA→Aoと通るため、制限すると全身に行く血液も制限してしまう)、両側の末梢肺動脈にバンディングをします。(下図参照)これを両側肺動脈絞扼術(bil.PAbanding、bil.PABなど)と言います。このbil.PAbandingはよく出てくる手術なので、覚えておきましょう。
・両側肺動脈絞扼術(bil.PABなどと略されます)
・利点:開心術ではない(心臓を開けなくていい)
・欠点;左右肺動脈狭窄の原因になる。
両側肺動脈絞扼術は左右の肺動脈を紐でキュっと縛るような手術です。これにより肺血流を物理的に制限し、high flowを防いでくれます。大きな利点は胸骨は開けないといけませんが、心臓を止める事なくできるので非常に体にとって負担は低いです。なので、high flowで状態の悪い子でも手術の負担が最小限でできるのです。欠点は後々の肺動脈の狭窄の原因になることがある、という事くらいです。長いことbil.PABのままおいておくと狭窄になりやすいです。Norwoodまでの短い期間ではあまり問題ないことが多いです。
図:bil.PAB
話はHLHSに戻って、、、。新生児期にNorwood手術でバタバタ亡くなっていたHLHSでしたが、両側肺動脈絞扼術を挟み、1ヶ月くらいで肺と全身の状態を良くして、あわよくば体重を増やし、生後1ヶ月くらいでNorwood手術をするようにしました。すると、成績はぐんと上昇し、ほとんど亡くならなくなりました。
現在では多くの施設でこのようなストラテジーをとっており、HLHSの予後は依然として悪いものの、TCPC(フォンタン手術)に到達できないような疾患ではなくなりました。
まとめ
今回はHLHSの血行動態について説明しました。
HLHSでは血液は「IVC・SVC+LA→RA→RV→肺動脈・PDA→肺・全身」へと流れます。動脈血が全身に流れるためには、
①PFO ②PDAの2つの開存が必須になってきます。
PFOが狭窄していたり、閉鎖しそうであればBAS(心房中隔裂開術)をしましょう。PDAはとにかく閉じてしまったらおしまいなので、生まれてすぐにPGE1製剤を投与しましょう。もう反射でLipoPGE1を入れてしまってたくらいの勢いで。医師がオーダーしてなければ、「LipoPGE1入れないんですか?」と生まれた瞬間に突っ込みをいれていきましょう。それくらい重要であり、生存に必須です。またHLHSで「何かおかしい?」と思ったら、すぐに心エコーでPDAを確認しましょう。PDAは生き物なので、気まぐれにいきなり狭窄したりしますので、注意しましょう。循環器をやってきた人は少なからずPDAで痛い思いをしているので、わかると思います。
とりあえず生まれてPGE1を入れたら次はhigh flowとの戦いです。内科的には限界がすぐ来てしまいますので、早めに両側肺動脈絞扼術(bil.PAB)の予定を立てましょう。そこまで終わってやっと生後1ヶ月のNorwood手術までPDAは引き続き注意が必要ですが、少し落ち着く事ができると思います。
全然まとまってなかったですね。。なので箇条書きにします。
・HLHSはRVから肺と全身に血液を送る。
・PDAとPFOの開存が生存に必須。反射でPGE1を投与。
・high flowに注意。すぐにbil.PABを。
箇条書きにするとこれだけです。でもとても重要です。ここらへんのミスは即命につながるので失敗はできません。今でもPDAがらみのイベントや弁逆流、右心不全などが制御できずに失ってしまう症例があります。やはりHLHSは身構えて迎えるべき重症疾患だと思います。なので勉強も必要ですし、他の人が担当になったとしてもチェックしておく必要があると思います。危ないところを指摘してくれる看護師には医師も一目置きます。できる看護師はこういう疾患の時に力を発揮するものです。みなさんもそんな看護師になってくれたら嬉しい限りですし、このブログがその一助になったらいいなと願うばかりです。
では次回はいよいよNorwood手術についてです。