誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

心室中隔欠損+大動脈縮窄+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄の複合疾患について DKS吻合とYasui手術:CoA complexの治療等について  疾患30

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前回は重要な項目でしたが、理解できましたか?CoA complex(CoAとその複合疾患:具体的にはVSD+AS ro SAS+CoA)の成り立ちは、円錐中隔(conus setpem)の後方偏位によってできていましたね。conusが後方偏位することにより心室中隔にギャップが現れVSDができ、後方偏位するため大動脈弁や弁下の狭窄が起こり、大動脈弁などが狭いため、大動脈にたくさんの血液を送り出せず大動脈弓の血流が不足し、十分に成長できず大動脈縮窄ができました。大体こんな感じです。イメージできればOKなので、病名は考えればわかる、くらいになっていれば十分です。

前回も少し話しましたが、このCoA complexにはバリエーションがあり、ASやSASが顕在化せず、VSD+CoAだけだったり、ASやSASがひどく、大動脈が離断してしまったケース:VSD+SAS+AS+IAAなどが主なものになります。

そしてもう一つ重要な事は、CoAがあれば逆に「VSDとかSAS、ASは大丈夫か?」と疑える心を持てるかどうか、がとても重要です。CoAは半数以上が複合疾患として出現するので、VSDはすぐわかるとしても必ず大動脈弁の狭窄はないか?大動脈は2尖弁じゃないか?とかチェックできるようにしましょう。なぜかと言うと大動脈弁や弁下の狭窄の程度で治療方針が大きく変わってしまうからです。今回はそんなCoA complexの治療について説明していきます。

 

治療のポイントは大動脈弁の狭窄!

結論から言うと、治療のポイントは大動脈弁の狭窄です。大動脈弁や弁下に狭窄があるかないかで治療の内容がだいぶ変わってしまうのです。なので、ここが最も大事なポイントになるのです。

 

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図:治療のポイントはAS

 

大動脈弁や弁下に狭窄が無い場合はVSD+CoAになります。VSDと閉じて、Arch repairでCoAを治してあげれば普通の心臓と同じ循環器なり、手術終了です。今後手術する必要もない状態になります。これは簡単ですよね。

大動脈弁や弁下に狭窄がある場合は、ちょっと複雑になりVSD+CoA+AS( or SAS)という形になります。普通にVSDと閉じて、CoAを治してもAS(or SAS:ここはASでお話をしますね。)が残ってしまいます。左心室に負担がかかるのでASも治してあげないといけません。「え?ASも手術すればいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、それが簡単にはいかないのがポイントなのです。新生児や小児でなくてもこの弁の治療は大変なのですが、小児は成長するので、人工弁は使えません。大動脈弁を手術で形成(弁置換するのではなく、切ったり貼ったりしてなんとか治すこと)するのも難しく、大動脈弁の径が小さければ人工弁にする以外には治しようがない、というのが正直なところかな、と思います。では、もし大動脈弁狭窄が強い場合はどうするのでしょうか?今回はこれについて説明していきます。

 

DKS吻合について

大動脈弁が狭い場合には「大動脈弁がだめな時は肺動脈弁を代わりに使う」というのがセオリーです。ほとんどの場合、先天性心疾患ではこの発想で治療をします。具体的にどうするのか、というと、大動脈弁が小さく十分ではないので、肺動脈弁も使って左室の流出路を作ります肺動脈と大動脈を合体させる手術:DKS吻合を行います。DKSは「Damus-Kaye-Stansel吻合:ダムス・ケー・スタンセル吻合」の略です。難しいのでみんなDKSと言っています。ま、フルスペルは僕も覚えてないです。「DKS」とだけ覚えればいいんじゃないかな、と思います。DKS吻合でやっていることは簡単です。言葉で言うと、「肺動脈と大動脈を合体させる手術」みたいな感じです。大動脈弁が小さくてだめなので、肺動脈弁を使ってやる、という発想です。まず主肺動脈を途中で切って大動脈の横にくっつけます。(Norwoodに似てる感じです)これがDKS吻合です。簡単ですね。こうすると左室から大動脈に行く血液は大動脈弁だけでは不十分でも、左室⇢VSD⇢肺動脈⇢DKS吻合⇢大動脈へと流れるので、十分な左室の流出路を確保することができるのです。大動脈弁が小さくて通れなかった血液はDKS吻合を迂回して大動脈に行ってやればいいので、左心室に負担がかからないのです。

 

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図:DKS吻合

この考え方やDKS吻合はよく使います。DORV(両大血管右室起始症)や単心室でASやSASがある場合もDKS吻合を行います。なのでASやSASが出てきた時にはこの考え方ができるようにすると治療方針がすんなりわかるようになってきます。DKS吻合は重要なので、しっかりマスターしましょう!

 

VSD+CoA+AS( or SAS)の治療はYasui手術!

ではCoA complexに戻ると、VSD+CoA+AS( or SAS)の治療はどうすればいいのでしょうか?ASやSASがあるところはDKS吻合で回避できるとして、肺動脈は切ってDKSで使ってしまっているのでなくなってしまいました。こんな時はTruncusで勉強したようにRVから肺動脈までを導管でつないであげる手術:Rastelli手術をしましょう。下の図のように弁付きもしくは弁なしの導管をRVから肺動脈につないであげます。こうすると肺動脈をDKSで使ってしまってもRV⇢肺動脈への血流を確保できます。

 

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図:Yasui手術

AS( or SAS)のところは狭窄で使えませんので、肺動脈を使って迂回するルートを作成するDKS吻合を行い、LV(左心室)⇢VSD⇢PA(主肺動脈)⇢大動脈へと血流を流してあげればいいのです。DKSとRastelliをしただけでは右心室と左心室の血液が混じってしまいますので、チアノーゼが残ってしまいます。そのため、VSDの辺縁と肺動脈の入り口にかけて上の図のようにパッチで塞いでやればOKです。CoAは以前説明したArch repairをしてやればOKです。このようにDKS吻合をしてパッチでVSDから肺動脈への道をつくりRastelliで右室流出路を作り、Arch repairをする手術をYasui手術と言います。CoA complexではYasui手術で二心室修復が完成します。このYasui手術、そんなにたくさんでてくるわけではありませんので、DKS吻合とどっちかだけ、と言われたらDKS吻合を覚えてほしいです。ま、Yasui手術っていう言葉は知らなくてもこの手術の方法が考えつければそれでOKなので、DKSの考え方のほうが遥かに大事です。という事で簡単にまとめると

 ・Yasui手術は「DKS吻合+パッチでVSDから肺動脈の道をつくる+Rastelli手術+Arch repair」です。

 ・CoA complex(VSD+CoA+AS or SAS)ではYasui手術で治す。

という感じです。なので、基本的にASやSASが強い場合はこのようにYasui手術をするしかない、というのが現状です。教科書には大動脈弁下の狭窄が2.5mm未満だと良い適応だと書いてました。ちなみにVSD+IAA+AS(or SAS)も同じでYasui手術を施行します。IAAの方がASやSASが強い場合が多いので、この手術方法をとる機会が多いかもしれません。

 

まとめ

ということで今回はCoA complexの治療方法について説明してきました。治療方法はASもしくはSASがあるかないかで治療方針が大きくかわります。

 ・AS(or SAS)がない⇢VSD閉鎖+Arch repair

 ・AS(or SAS)がある⇢Yasui手術(DKS吻合+Rastelli手術+パッチでVSDと肺動脈をつなぐ手術+Arch repair)

となります。DKS吻合は「肺動脈を切って大動脈にくっつける手術」です。大動脈弁(や弁下)が使えない時にする手法です。非常によく出てくる手法なので、言われたらパッとイメージできるようにしておくといいと思います。

 

でもCoA complexの手術方法はこれだけではありません。重要なポイントもこの疾患にはあるのです。。。次回は外してはならない重要なポイント「Yasui手術とVSD閉鎖+Arch repair、どっちにするか微妙な時はどうするの?」という事について解説していきます。循環器には常にこういうグレーゾーンの話がつきまといます。そして悩むんですよね。。。