誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:心電図について 〜基本25〜

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今日からはみんな大好き、不整脈について話をしていこうと思います。はじめに断っておくと、僕も不整脈は苦手です。あまり得意ではありません。なので、不整脈を専門にされている先生はこのブログを見ないようにしていただきたいな、と思います。怒られそうな事を書きますので。。。

でも、実際のところ、みんな不整脈わかってないですよね?医師もほとんどわかってませんし、循環器を専門にしている人も結構わかってないように感じます。なので、看護師さん、安心してください!偉そうにしているあの先生も実のところ不整脈は全くわかっていないのです。「とりあえずアンカロン使っときゃいい」と、これくらいしかわかっていません。実は内心全然わかっていないことがバレると困るな、くらいにしか不整脈の事はわかっていないのです。僕も全然わかっていないので、非常にその気持ちはわかります。というか、僕も同じ気持ちです。そんな僕が話せる事を全てここに記載するので、レベルの高い事は望まないでください。

という事で、この記事の対象は不整脈がまるでスワヒリ語と同じくらいわからない、という人に向けて書きます。そして小児の不整脈に特化した内容になりますので、大人の人には全く参考になりませんので、ご了承ください。

 

不整脈の前に心電図について

不整脈について話す前に心電図について少し話をさせてください。外来のムンテラで話している程度の内容なので、簡単なのでアレルギーを起こさずについてきてください。心電図は血液検査やレントゲン、CTと同じようにただのツールです。心エコーのときも同じような話をしたかもしれませんが、心電図は心臓の状態を把握するためのただのツールです。なので、正直心電図の事はわからなくても心臓の状態さえわかればいいんです。なので、心電図についてはみなさん、もっと気軽に付き合ったほうがいいかな、と思います。

ひとつおすすめの本があります。「心電図はとるのも、見るのも無理」っていう人は大人の循環器の先生の本ですが、山下武志先生の「3秒で心電図を読む本」がおすすめです。この本は超簡単に読めますし、本当に大した事書いてません。ただただ心電図が苦手な人にとっかかりとしていいかな、と思いおすすめさせてもらいます。心電図の謎の波形を見ただけでアレルギーを起こす方はちょっと見てみてもいい本かなと思います。

 

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3秒で心電図を読む本

3秒で心電図を読む本

  • 作者:山下 武志
  • 発売日: 2010/03/25
  • メディア: 単行本
 

 

図:山下武志先生 「3秒で心電図を読む本」(Amazonのリンクです。)

モニターくらいなら見るよ、という人は上の本読まなくてもいいかもしれません。モニターすら見るのが苦、という人には上の本いいと思います。という事で、ここから本題に話をすすめていきますね。

 

心電図について

不整脈を見るにはまず心電図を見る事が重要です。上の本と内容がかぶるかもしれませんが、そこはご了承ください。心電図、というのは上にも書いたように心臓の状態を知るためのただのツールです。胸部Xpや心エコー、CTやカテなどと一緒です。それぞれの検査では得手不得手があります。心臓の動きを心電図で見るのは難しいですが、心臓のリズムを見るのを得意としています。心電図は心臓の拍動するリズムを見ているものなのです。という事で心電図をみていきましょう。

心電図(12誘導心電図)を見てみると、12個も波形が並んでいます。12個の波形はそれぞれいろんな方向に心臓の電気を測ったものです。12個もあってややこしい、と思うでしょうが、全部わかる必要はありません。心電図の波形は、例えるなら心電図の波形は「言語」と同じです。「こんにちは」を日本語で言えば「こんにちは」、英語で言えば「Hello」、韓国語で言えば「アンニョ」、中国語で言えば「ニーハオ」、イタリア語で言えば「ボンジョルノ」、スペイン語で言えば「オラ」・・・といろんな言い方があります。世界中で最もメジャーなのは英語です。海外に旅行に行って「こんにちは」と言ってもあまり通じない可能性が高いですが、英語で「Hello」と言えば、まず通じるでしょう。心電図も英語と同じようにめっちゃメジャーな波形があります。それがⅡ誘導です心電図の世界では最悪、英語と同じような存在のⅡ誘導さえわかればなんとかなるものなのです。苦手な人はむしろ、Ⅱ誘導以外は無視したほうがいいです。それでほとんど仕事で困ることはないと思います。そもそも心電図は波形が12個もあるからわからなくなるのです。まずはじめは11個の波形は無視してⅡ誘導だけ見るようにしましょう。

 

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図:心電図

ということでⅡ誘導についてみていきましょう!まず上の図にある波形がⅡ誘導の波形です。この波形は心臓の電気の流れを表しています。電気の動きで心臓は動いており、それぞれの電気の動きには名前がついています。名前については残念ながら覚えないとはじまらないので覚えてください。おそらく国家試験などで勉強しているので、波形の名前は覚えているはずです。最初の小さい波がPです。P波は心房の収縮を表しています。次のするどいスパイクがQRS波です。QRS波は心室の収縮を表しています。心室が収縮した後、次の心拍にそなえて心室はもとの大きさに戻らないといけません。心臓が収縮した後にもとに戻るのを表しているのが、その後に続くTです。心臓の1つの心拍はP波(心房の収縮)⇢QRS波(心室の収縮)⇢T波(心室がもとに戻る)によって成り立っています。なので、この3つの波形で心臓の1心拍を表している事になります。このように心臓の電気のリズムを見える化したのが、心電図ということになります。

 

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図;心電図の波形

まとめると

 ・心電図はⅡ誘導だけでOK。

 ・P波は心房の収縮

 ・QRS波は心室の収縮

 ・T波は心室がもとに戻るフェーズ

 ・P波(心房)⇢QRS波(心室)⇢T波(心室戻る)で1心拍

が大事なところです。小児の心電図をややこしくしているのは、「年齢によって心電図が変化する」事です。大人は基本的に心電図はみんな一緒です。病気も冠動脈に関連したものが大多数なので、特徴的な波形をある程度覚えておけばOKなのですが、小児は多種多様なんです。いちいちこの年齢はこんな心電図が普通で・・・とか覚えていたらそりゃ心電図が嫌いになるでしょう。幸いⅡ誘導はほとんど年齢による変化もなく、多くの人で同じような波形になるのでそういう意味でもⅡ誘導だけ見るのは理にかなっていると思います。ま、ごちゃごちゃ言いましたが、とりあえずⅡ誘導だけでOKということです。では、次にこの心電図であらわされる電気の流れと心臓の動きをリンクして考えていきます。

 

心臓の動きと電気の流れ:洞結節と房室結節

上記の図を理解してもらうだけで、割とOKなのですが、もう少し詳しく見ていこうと思います。心臓は「どっくん、どっくん」と動きます。この「どっ」が心房の収縮の音で、「くん」が心室の収縮の音です。(本当は「どっ」が房室弁の閉じる音で、「くん」が肺動脈弁や大動脈弁の閉じる音ですが、今回は細かい事はいいとしましょう。)この動きは電気で制御されています。電気の信号が来ることで、心臓の筋肉が動き、血液を拍出しているのです。この電気の動きを見える化したのが心電図、という事になり、上に書いたようなP波、QRS波、T波という形で心電図に記録されます。なので、心電図というのは心臓が動いているタイミングを見ていることになります。

 

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図:洞結節と房室結節

まず図を見ましょう。ちょっとだけ覚えてもらう言葉がありますので頑張りましょう。洞結節(sinus node:サイナス)と房室結節(AV node)です。右房の上の方にあるのが洞結節、心臓の真ん中にある房室結節です。ここは電気の重要な起点になります。心臓の動く早さ、つまり脈、を決めるところが心房の上のSVCの付け根のあたりにある洞結節というところです。英語?でsinus(サイナス)とか言います。洞結節は心臓のリズム、つまり心拍数をコントロールしているところです。洞結節が早く動けば心拍数は上がり、洞結節がゆっくり動けば心拍数は下がります。つまり心臓の心拍数を決めている頭脳みたいなところなので、洞結節っていうのはかなり重要なものになります。洞結節が興奮すると電気が心房に伝わり、心房が収縮します。心電図で言うと、コレがP波になります。その後電気は心房の中の赤い点線を伝わって房室結節に伝わります。実際は心房の中のどこを通って房室結節に電気が伝わっているか不明らしいですが、イメージしやすいので赤い点線で書いておきます。その後は房室結節でちょっとタメを作ってから心室に電気が伝わっていきます。この「タメ」が重要になります。時間としてはP波とQRS波の間の時間になります。このタメは心房の筋肉が収縮して心室に血液が充満するのを待つためにあります。タメの後、房室結節から一気に赤い線のところを電気が通って心室に電気が伝わります。心室のところに赤い線が書いてありますが、そこが電気の通り道です。実際には高速道路みたいなイメージです。赤い線のところはめちゃめちゃ早く電気が駆け抜けます。実際、心筋は全部電気を通すのですが、伝わるスピードが遅く赤い線じゃない心筋は「徒歩」みたいなイメージです心室には赤い線、高速道路みたいなものが心室全体にあり一気に心室の筋肉が収縮するようになっています。これはめっちゃ大事なので、頭にいれておいてください!赤い線はめっちゃ早く電気が流れ、一気に心室全体に電気が届けられるので、心室は一気に収縮する、という事です。心室が収縮する時間がQRS波の「幅」になります心室の動きが良く一気に収縮するとQRS波はするどいスパイクになりQRS波の幅は狭くなり、心室の動きが悪くダラッと収縮する場合にはQRS波は鈍いスパイクになりQRS波の幅も広くなります。なのでQRS波が狭い、鋭いQRS波は収縮がいいということになるのです。全てに当てはまるわけではありませんが、QRS波の幅は心臓の動きの良さを反映したものになり、心電図から心室の動きも評価できたりするのです。そして、その後一気に収縮した心臓はダラッともとに戻るので、T波は緩やかなカーブを描いています。これが心臓の収縮の一連の電気の流れです。

簡単に言うと、「洞結節が興奮して心房が収縮し(P波)、電気が房室結節に伝わりタメを作り、心房の血液が心室に入った後、赤い線(高速道路)を伝って一気に心室に電気が流れ心室が収縮し(QRS波)、収縮した心臓がもとに戻る(T波)」という感じです。絵を見ながら心電図の波形と、心臓の動きがリンクするイメージが自分の中にできたらそれでOKだと思います。

いい忘れていましたが、もうひとつ重要な事があります。それは房室弁のところは電気が通らない、という事です心房と心室の間には房室結節以外に電気が行き来できる場所がないのです。これはあまり強調される事がないかもしれませんが、めちゃめちゃ重要です。なので、心房の電気は弁のところは通らずにどうしても房室結節を通って心室に行かないといけないのです。これが重要なポイントのひとつなので、頭に入れておいてください。

洞結節と房室結節は心臓の電気の流れの中でも最も重要なところです。おさらいすると、洞結節(sinus)は心臓の脈を決めるところであり、運動をする時に心拍数をあげたり、寝ているときに心拍数を下げたりする命令を下している重要なところです。いわば心臓のリズムを司る、心臓の頭脳のようなところです。房室結節は心房から伝わってきた電気を心室に伝える中継地点です。房室結節以外のところは心房の電気は心室に伝わりません。そのため、必ず心室に電気を伝えるためにはここ、房室結節を通る必要があるのです。房室結節は心房と心室の中継地点であると同時に、心房の電気を心室に伝える時にタメを作る役割も果たします。タメを作ることで、心房の血液が心室に充満する時間を作るのです。このタメがあるからこそ、心臓は効率良く全身に血液を送る事ができるのです。

という事で心臓の動きと電気の流れをまとめると

 ・洞結節(sinus)が心拍数を決める心臓の頭脳。

 ・まず洞結節(sinus)が興奮して心房が収縮(P波)

 ・心房の電気が房室結節に伝わりタメを作る

 ・その後電気は心室内の高速道路を通って一気に心室に伝わり収縮(QRS波)

 ・収縮後、次の脈に備えジワッと心臓がもとに戻る(T波)

 ・QRS幅は心臓の収縮にかかる時間。幅が狭いと収縮がいい、広いと悪い。

 ・心房と心室の間は房室結節以外は電気が通らない。

こんな感じになるかと思います。心電図アレルギーのみなさんは、まずⅡ誘導の心電図だけみながら(ほかは全て無視です。)、心臓の動きをイメージできるようになったら十分ではないかな、と思います。

 

Ⅱ誘導以外の誘導に関しては・・・

Ⅱ誘導だけ見ればいい、と上では話ました。個人的には心電図が苦手な人はⅡ誘導以外考えなくていいと思っています。僕もとりあえずⅡ誘導を見て、あとはこの先に話す方法で心電図をチェックしています。ま、Ⅱ誘導だけで十分と言われても、他の11個の誘導に関しても少しわからないと不安になりますよね。大人の心電図の知識がある人はそれで十分です。大人の心電図も見たことがない人の場合は、Ⅱ誘導だけでまずはOKなので、他の誘導に関してはこのようにして見ていきましょう!

 ・前の心電図と比べる。

簡単ですよね、「前の心電図と比べる」、本当にこれだけです。必ず小児の心電図は入院時や外来初診時に心電図をとっています。これと比べて波形の形に変化がないかチェックすればいいのです。間違い探しと一緒です。「P波の向きが前のやつと違う」「T波の形がV4、V5、V6で違う気がする」「QRS波の幅が幅広になっている」などなど、2つの心電図を並べて前の心電図と何が違うかを比べて違うところを指摘できればOKです。P波がおかしければsinus がおかしかったり、心房性の不整脈があったり、と心房の異常が疑われます。QRS波やT波がおかしければ、心室の何かの異常が疑われます。このように、前の心電図と今の心電図で波形の違いがないかチェックするのが重要なポイントなのです。

ここで、あえてポイントをあげるとすれば

 ・P波の位置と向き

 ・QRSの幅と形

 ・T波の向きと形

などになるかな、、、って結局全部なので比べて間違い探しをすればいいのではないでしょうか。もう一つ言うと心電図の波形は術後に手術の影響で変化する事があります。別に異常がなくても手術前と後で波形が変わります。ペースメーカーを入れた人はペーシングしている時とペーシングしていない時で波形が変わります。いろいろ話すとわけわからなくなるかもしれませんが、とにかく何かした後は必ず心電図をとっておくと間違いないのではないでしょうか。下に術前術後の同じ症例の心電図を比べてみます。同じ症例なのにだいぶ波形が違う事がわかると思います。

 

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図:心電図は前と比べる。術前術後の違いの例

 

では、前の心電図がないときはどうしましょう?結構困ることになりますね。緊急入院の時に心電図を取り忘れている時ってちょいちょいあるように思います。これって実はなにか不整脈や心電図でわかる問題が後から起こった時に困る事になってしまいます。比べるべき心電図がないので、問題点がわからない可能性が出てきてしまいます。こんな時の対処法は実はあまりありません。しょうが無いので、今ある心電図だけで戦う事になります。それでわかることも結構あるので、なんとかなるかもしれませんが、我々シロウトは比べる心電図があったほうがずっと戦いやすいので、なるべく入院時、初診時、術後の心電図はとるように心がけましょう!

 

まとめ

今回は不整脈に入る前に心電図について話しました。とにかくⅡ誘導だけを見て、波形から心臓の動きをイメージできるようになることが心電図マスターになる第一歩だと思います。洞結節(sinus)が興奮して心房に電気が伝わり(P波)、房室結節(AV node)に伝わって電気はちょっとタメと作った後、電気の高速道路みたいなところを通って一気に心室に伝わります。一気に収縮したのがQRS波になり、次の心拍のためもとに戻るのがダラッとしたT波になります。心臓の動きの先導は常にP波であり、P波からQRS、T波と続きます。心電図を見ながら心臓が動いているのをイメージできれば十分です。もう一つ、電気は心房と心室の間で完全に遮断されていて、通常は電気が伝わりません。房室結節だけが、心房と心室の電気を繋ぐ架け橋である、ということもとっても重要なので覚えておきましょう。後、Ⅱ誘導以外については、前の心電図と比べて間違い探しをすればいい、ということも覚えておいてください。なので、入院時、初診時、術直後の心電図はとっても重要です。とり忘れていたら指摘してあげましょう。

心電図に関してはこれくらいかな、と思います。少しでも心電図が身近に感じれるようになってもらったら嬉しい限りです。Ⅱ誘導だけしっかり見て、後は前の心電図と比べるなら、だいぶ気楽に思えませんか?

という事で次回はいよいよ不整脈について話をしていきましょう。