誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:徐脈:洞不全症候群(SSS)について 〜基本30〜

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もともと不整脈の大枠について、と今回のSSSの記事は一緒に書いていましたが、ちょっと分けたほうがわかりやすいと思い、わけて書いています。前回の記事で不整脈の大体の全容を掴んでもらった方が、ここからの話もわかりやすくなります。一応、僕が勝手に不整脈を下記の3つにわけました。学術的な分け方ではなく、なんとなくこれがわかりやすいかな、と思ってわけました。どのように分けたかと言うと

・徐脈

・上室性不整脈

心室不整脈

の3つにわけました。すごい簡単に言うと、徐脈は「脈がゆっくりになること」、上室性不整脈は「心房と房室結節から出る不整脈(違う言葉で言うと心室から出る不整脈以外の不整脈)」、心室不整脈は「心室から出る不整脈」です。

今回はこの最初の徐脈、について話をしていきます。徐脈は洞不全症候群(SSS)と房室ブロック(AVB)しかありません。治療はペースメーカー植え込み術しかないです。なので、SSSとAVBを軽く済ませて、みなさんの苦手なペースメーカーに力を注ごうと思います。ちょっと内容かぶるかもしれませんが、記事に戻っていきましょう。

 

徐脈について

徐脈についてはあまり不整脈だと認識していない人も多いと思います。徐脈って言うのは単純で、脈がゆっくりになることです。心拍数が少なくなってしまう事が原因でしんどくなるのが、徐脈です。先天性のものもありますが、経験する多くの物は心臓の手術をした際になってしまうものです。よくFontan手術の後、洞不全症候群になり、脈がゆっくりになってしまってペースメーカー植え込みが必要になったり、修正大血管転位症(cTGA)でダブルスイッチ手術(DSO)をした後に房室ブロックになってしまい、ペースメーカー留置が必要になったりなどです。結構術後にペースメーカーが必要になるケースはあります。やっかいなのは治療の方法が1つしかなく、根本的にはペースメーカー植え込み術以外の治療法がない、という事です不整脈と言う場合は頻脈を連想させる事が多く、治療や対応について反射神経を必要とする場合が多いと思いますが、徐脈ではあまり反射神経を必要とする場合がないので、みなさんの興味もイマイチかとは思います。しかし、みなさんのアレルギーの素であるペースメーカーの話はこの徐脈がわからなければわかりませんので、徐脈も軽く把握し、ペースメーカーのアレルギーも治すキッカケにしていきましょう

という事で今回は徐脈について話をしていきます。簡単ですし、わかっている人も多いでしょうから、簡単に話していきますね。まず徐脈には2種類あります。1つ目は洞不全症候群、2つ目は房室ブロックです。まず洞不全症候群について説明していきます。

 

洞不全症候群(SSS)について

洞不全症候群は英語でsick sinus syndromeでSSSと略されたりします。sinus(洞結節)が何らかの理由で機能が弱ったり、動かなくなってしまう事を言います。洞結節は以前にも説明しましたが、心臓の脈の命令を出しているところです。この脈の命令を出しているところが障害を受けると、そもそも脈が出なくなります。死にはしませんが、かなりしんどい状態だと言えます。洞結節から脈がでなければしょうがないので、次のポイントである房室結節がしょうがなく脈を出してはくれます。(こういうのをjunctional rhythmとか接合部調律とか言います。)しかし、非常に遅い脈しか房室結節は出せません。なので、ゴロッと寝転がっているだけならなんとかなりますが、動いたりするには十分な脈が出ず、移動や運動ができなくなってしまいます。また、突然心拍が出なくなって脈が3,4秒でない人もいます。失神したりすることも、あり得ます、そんな人見たことないですが、大人ではあるかもしれません。基本的には、「脈が遅くてしんどい」のが、洞不全症候群です。なので、「心電図のP波、QRS波、T波ちゃんと揃っているけど、脈がゆっくりすぎる」または「脈がゆっくりでP波がそもそも出なくて、補充調律(P波なしで房室結節から出るけど心電図上には波形は見えないのが補充調律)でQRS波とT波しか出てない」こういうのがよく見る例です。これが洞不全症候群(SSS)です。

 

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図:SSSについて

原因は簡単で、洞結節に異常があるか、洞結節から房室結節につながる道に異常があるためです。たまに先天的に異常があったりするケースもありますが、多くは術後に見られます。例えば手術で洞結節に傷をつけてしまったり、洞結節を栄養している冠動脈(sinus node artery)を傷つけてしまったり、洞結節から房室結節につながる心房の筋肉を傷つけてしまったりして、結果的に洞結節が障害されて脈が出なくなってしまいます。Fontan手術とかではSVCを切って肺動脈につなげますよね?でも心房とSVCのつながるあたりに洞結節っていうのは存在するのでSVCを切る際に傷つけちゃう可能性があるんです。Fontan手術はすぐに徐脈にならなくても長期的にSSSになるケースが多いです。それはこの手術の性質上SVCを切ってしまうから起こるのだと予想されます。同じように心房内を縫ったり切ったりするMustard手術(マスタード手術)Sennig手術(セニング手術)(TGAの手術の説明でちょっと出てきてます。今では修正大血管転位症でダブルスイッチ手術(DSO)をするときに行われる手法です。)、総肺静脈還流異常症(TAPVC)MVR(僧帽弁置換術)MVP(僧帽弁形成術)とかで心房操作の際に傷つけちゃってSSSになる事があります。よくある原因となる手術はこんなところかな、と思いますが、思ったよりもちょいちょい認められます。刺激伝導系(電気の通り道)は心臓を開けて手術をするときにも見えないのでどうしてもこういう事が起きます。色でもついていて見えれば洞結節や電気の通り道を傷つける事は避けられSSSはかなり減ると思うのですが、残念ながら他の心臓の筋肉と見分けはつかないのです。

次にSSSの心電図について話します。心電図で見ると、P波が非常に遅い、もしくはP波が出ません不定期にP波がおやすみする場合もあります。QRS波やT波などには異常がなく、P波が出ていれば、その繋がり方も普通なので割と簡単にわかるかと思います。治療は一つしか解決方法がありません。ペースメーカー植え込み術です。心房をペースメーカーでペーシングしてあげ、洞結節の代わりに心臓が動くように命令を出すのです。ペースメーカーに関しては、結構難しいので、またまとめて話す事にしますね。どれくらいの脈ならペースメーカーが必要かと言われると、これはなかなか難しいのですが、新生児から乳児期では心拍数が80以下、3歳以上なら60以下、中学生〜大人だと40以下くらいがなんとなくの目安かな、と思います。これは僕の少ない経験からなのであまり当てにしないでちゃんと患者さんを見て考えましょうね。新生児で100以下って書いてある本もありましたが、100だとペースメーカー入れるかはかなり微妙ですよね。でも80以下だと脈が低い事が原因でBNPが上がったり、心不全になったりするので、ペースメーカーを入れないと…ってなるケースが多い気がします。なので、何もわからない人はそれくらいの徐脈になるとやばいのかもって思ってもらうといいかと思います。でもSSSで徐脈の場合にはすぐに死んだりする事はまれなので、しっかり考える猶予があると思いますので、見極めてからペースメーカーを入れるか、入れないかを考えましょう。注意すべき点は、「ペースメーカーは一旦入れると引き返すことが非常に難しい」という点です。なので、ペースメーカー植え込みには慎重に適応を決めないといけなく、ここが非常に難しいところでもあります。

まとめると、洞不全症候群:SSSとは

・洞結節が障害を受けて機能が低下する事。

・原因は手術によって、SVC切ったり、sinus node arteryなどの冠動脈を傷つけたり。

  ⇢Fontan手術、ダブルスイッチ手術、TAPVCの手術など。

・心電図ではP波が出ない。

・治療はペースメーカー植え込み術一択。

・新生児や乳児では脈が80以下、3歳以上なら60以下はペースメーカーを考慮。

といった感じかな、と思います。

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図:洞不全症候群の心電図

なんとなく洞不全症候群(SSS)はわかってもらえましたか?多くケースでは手術の後になる事が多いSSSですが、急になったりして困るケースはほとんどありません。なぜなら多くのケースでは術直後には一時的なペーシングリードが入ってます。術直後に一時的にSSSになっても、そのうち復活する事もあるので、すぐにペースメーカー植え込み術をする必要はないです。なので、SSSは不整脈と言えども反射で対応する必要はありませんし、よくわかっていなくても困ることはあまりない不整脈と言えます。じっくり経過を見て、脈が復活してこなければペースメーカー植え込み術を考慮すればいいのです。

 

という事で次回はもう一つの徐脈、房室ブロックについて話します。房室ブロックも同様に徐脈になる不整脈なので、反射神経を必要とするものではありません。なので、ゆっくり考えて理解できればいいかな、と思います。